第十七章「完全なる神」
◆クライマックスシーン2 〜完全なる神〜
――時は遡る。

それはルナがアケルナルと話していたあの時間
あの時に行われていた会話の真相へと。

ルナ:お。

GM(アケルナル):「ルナ。私のために神を殺せ。その身を捧げ私のために死ね」
彼は君へそうはっきりと告げた。
ルナの隣ではマーク博士が沈痛な表情で立っている。

ルナ:静かだった。
「私は、貴方に恩返しが出来るのでしょうか?」
何故だろう。私の心は、とても静かだった。

GM(アケルナル):「ああ、それで私の目的も達成される」

ルナ:「……アケルナル様。私は、幸せ者です。
貴方に拾われてから……ずっとずっと、不相応な人生でした」 
幸せなのだ。愛しい人、アケルナル様が、頼ってくれているのだから。
「喜んで、お受けいたします」
この命、全て捧げよう。私ハ、幸セナノダ。
マーク博士は気付きます。ルナが、笑顔を浮かべていないことに。

GM(マーク):「…いいえ、ルナさん。貴方には帰るべき場所がある。
アケルナル様のために命を捨てる必要などどこにもありません」
君を制止するようにマーク博士が前に立つ。

ルナ:それは妄執なのかもしれない。意地だったのかもしれない。
ただ、本心からなのかどうかは、誰にも分からない。
「どいてください。私が、やろうと決めたことです」
愚かな女だと罵っても構わない。それでも、依存するしかないのだ。

GM(アケルナル):「ほう…驚いたな、マーク。今になって罪悪感か?それとも――」

「ルナが、お前の娘だからか」

ルナ:……え?

GM(マーク):「両方です。いまさら、贖罪などと生易しい事は言いません。
私には責任がある。ルナ、貴方を…父でありながら何も出来なかった私がするべき責任が」
彼は君を見る。今までにない強い決意の瞳で。

ルナ:「……そう。今更父親面?いきなり現れて、急に父親だと?ふざけるな」

GM(マーク):「…そうですね。今更父親面などする資格もありません。
貴方にとって私の存在などとうに無い事もわかっています。
ですが、それでも私は貴方の命が無くなることを知っていかせる事は出来ません。
これは全て私の責任。私の研究の過ちです。ですから、その過ちは私自身で償うまでです」

ルナ:「知った口を」

GM(マーク):「何とでも言って下さい。貴方が戦う必要はありません。神は私が殺します」
 
「この【反魂(エイドス)】で」
 
そう言って彼の懐から出てくる物。
それはまさに機関が捜し求めた神を殺す最後の星宝、輝く宝珠【反魂(エイドス)】

ルナ:マーク博士を蹴っ飛ばすよ!
「それで私が感謝するとでも!?
私が助けて欲しい時にほったらかしで、手の届く場所に来た途端罪滅ぼしだと?」

GM(マーク):「…そうでしょうね。貴方から見ればそうとしか見えませんね。
ルナ、貴方に感謝されるためにするのではありません。言ったはずです。
私は私の使命を果たすためにここに来たと」

ルナ:「そんなもの知るか!」
もっかい蹴るよ
「そんなことで私がアケルナル様のためにできることを奪うな!」

GM(アケルナル):「くくく、やはりお前が持っていたかマーク。いやお前らしくていいよ」
アケルナルはその状況をただ笑い、マークに語りかける。
 
「…何とでも言って下さい。私は神の計画を挫く。そして、アケルナル。貴方の計画も」
 
「…ほぉ」

そのマークの発言にアケルナルはこれまで以上に興味深い視線を向ける。

「貴方の狙いが【エンテレケイア(完全なる扉)】である事は分かっています。
私はこの【反魂(エイドス)】で神と【エンテレケイア(完全なる扉)】を滅ぼします」

その言葉を聞き終え、アケルナルは初めて惜しむような、心の底から勿体無いという表情をし
静かにその本心を零す。

「…ふむ。君のその人間としては飛び抜けた知識と閃き。
私は君が思っていた以上に君の事を評価していたよ、マーク。
ああ、故に…実に惜しい、残念だよ。もう少しだけ、君が私に従順なら
私が治める世界の住人として、相応の地位を渡したものを…」

言って最後に決別するようにアケルナルは深くマークの顔を刻み込み――

「実に、残念だ」

“どすっ!!!”
 
刹那、マーク博士の胸に風上が開く。
 
マーク博士の胸を貫いたのはルナ。
否【同調魂(メノン・シンクロ)】により肉体の支配を奪われたルナ。

ミシュラ:(まーくん…!なんでそんな計画を事もあろうにくじく対象の前でぺらぺらと…)

GM:(仕方ないよ、事実アケルナルは絶対に手出しできないと油断してましたしw
こればかりはマーク博士も決別の意思として絶対に伝えたかった事ですから)

ルナ:何の感慨もない。
ただの知り合いだったし、アケルナル様の邪魔をしようとした。
いいね!こういうダークサイドなロール。

ミシュラ:(「ルナっちには後でこんこんと説教して後悔させてあげるんだからね」)

GM(アケルナル):「【反魂(エイドス)】は私が責任を持って利用しよう。
君の知識はまさに私に取っては何にも優る至高の星宝だった。
故に君が作り出した【反魂(エイドス)】を持って私が必ず神を殺し
その後の“新世界”を築くと約束しよう――」

「………アケル…ナル………ッ」

その最後の一言と共にマークは斃れ動かなくなる。
だが、アケルナルはマークのその死体にある種の羨望めいた
その尊厳を称えるように見つめ静かに瞳を瞑る。

ルナ:宝珠を拾う。
「アケルナル様、これは如何なさいましょうか?」

GM(アケルナル):「お前が持っていろ。時が来たら利用する瞬間が訪れる」
言ってアケルナルはルナに対して振り向きもせず簡潔に告げる。

ルナ:「御意に」

GM(アケルナル):「では改めて神の抹殺を任せたぞ」

その時、振り向きゆっくりと駆け出したルナはアケルナルが最後に向けた表情を見ていなかった。
それは先ほどまでマークを見ていた時の表情とはまったく別のもの。
そう、まるで道端に転がる石や塵屑、“まるで価値の無い物”を見るような
何の感情も持たない無機質な瞳であった。

そう、アケルナルに取ってルナとは“ただの知り合い以下の存在(道具)にしか過ぎないのだから”
 
そうして時は進む、その歴史を刻む。

◆    ◆    ◆

GM:アケルナルは静かに斃れたまま動かなくなったイシュタルの身体を踏みつけながら
斃れたルナのもとまで来る。
「ご苦労」
その一言だけを呟き、君の身体を蹴飛ばし、その身体から落ちる【反魂(エイドス)】を手に取る。

ルナ:「……ぁぅ」

GM(アケルナル):「やあ、ミシュラ。君も生き残っていたんだね。正直意外だったよ」 
アケルナルは自らの野望達成を目前とし、笑みを浮かべミシュラへ話しかける。

ミシュラ:「アケルナル…貴方の為に命を賭して戦ったルナに対して、
その仕打ちはあんまりにも酷いんじゃないかな?」
静かにそう返す。

GM(アケルナル):「何を言っているのだ。あれは単なる私のスペアだ。
神との戦いで私の代わりに死力を尽くし死ぬ人形。
神相手ではさすがの私も死の可能性がある故、その代用品と使った物に過ぎない」
物。それは単なる道具。アケルナルがルナに抱くのはつまりはその程度。

ミシュラ:「代用品か…貴方もイシュタルも人を物のように扱う。
ルナっちは、ルナは…幸せになりたいんだ。
今ルナが戦ったのも、貴方のスペアだからという理由なんかじゃない。
ルナっちは、ルナっち自身の意思で戦った。何故それを判ってあげようとしないのさ」

GM(アケルナル):「忘れたのか、ミシュラ。私は完全なるデミウルゴス。感情の無い神人。
つまりは【無空間(フェムトー)】との繋がりを絶たれ、神の持つ傲慢やすらも持たない種族。
“完全なる存在”だ」

ミシュラ:「デミウルゴスに心が無いわけじゃない。
人間がもつ感情の全てを再現できてないだけ。ルナっちはそうも言っていたよ。
ルナっちは…貴方に、人間の感情をもってただ一言
ありがとう、とそう言ってもらえただけで救われたろうに」
怒りを抑える事が出来ない。

GM(アケルナル):「くだらないな。教えてやろうミシュラ。
私は感情を再現する気などない。神が何故死んだ?何故、お前らごときに敗れた?」
 
言ってアケルナルなる先ほどまで繰り広げられていた神との頂上決戦
人たる彼らが神に打ち勝てたその根幹となる原因を指摘した。

「答えは傲慢といった感情を持っていたからだ。
イシュタルが持つ【侵食】という“絶対悪”の感情。
それもまたたった一つの強い感情だ。故に自らが下等な餌としか認識していないお前達に
対して慢心や傲慢が生まれ、その結果として敗れた」

だが、と彼は続ける。
 
「私にはそれは無い。私の心は無だ。
つまりそれはすでに完成されている。それ以上そこに何かがある必要は無い」

ミシュラ:「傲慢があったから神は負けたって?―――違うな。
それは僕らに感情があったからだ。
この世界を失いたくないという絶対意志があったからだ!」
一言吼え、ルナとカストルを両方庇える位置に飛ぶ。

GM(アケルナル):「フッ、見解の相違だな。だがいい、許そう」
言って彼は【エンテレケイア(完全なる扉)】すなわち神の器の眼前まで来る。
「最後に教えておこう。この【反魂(エイドス)】とは“魂を支配する星宝”だ。
つまり、これがあれば肉体に傷をつけずその者の魂を潰したり
あるいは…入れ替えたりする事ができる」
 
「そう、今私はこの神人の肉体を捨てる」
 
瞬間、【反魂(エイドス)】が輝きを始める。

ルナ:(なんかすごいことになってる。)

ミシュラ:どうする。止めるべきか―――否、止めようとして止められるのか。
今こちらは満身創痍。ここで彼が神の体を手に入れるとして、
この星を喰らい尽くされる以上に悪いことが起こるのか?
一瞬の迷いが行動を遅らせてしまった。

そのミシュラの思考を肯定するように彼の逡巡を前にアケルナルは遂に自らの目的を成就させる。

「光栄に思うがいい。お前たちは新たなる、完全な神の誕生を――目にするのだ」

刹那、光が降臨した。


否、それは“神”


真なる完全なる神の降臨。

今、ここに星王イシュタルは死んだ。

そして、新たなる神が降臨した。

それは完全なる神の器を有した、神の意識すら超えた人物。


すなわち―――星王アケルナル。


◆クライマックスシーン2 〜最後の歌声〜
そこは神の座《エンピレオ》へと続くための星王殿最上階部、神の扉前の空間。
そこでクリスタルとなっていたプロパテールbフデミウルゴスが元の姿へと戻っていた。
 
アルレシャ「…これは、一体何が…」
 
ベテルギウス「さあね、でもどうやらあたしらの魂が抜かれている間に何か起こったみたいね」

彼らは知らぬ事であったが、すでに神の扉の向こう側ではミシュラ達と神との死闘に決着がつき
そこへ現れたアケルナルによって新たなる神の器【エンテレケイア(完全なる扉)】は
彼の物となっていた。
そして、この場で水晶となりデュナミスを失った彼らの器に再び魂を吹き込んだのも
他ならぬアケルナル自身であった。

無論、そのような事をこの場にいる当人たちは知らずにいたわけであり
アケルナルにしても何故そのような行為を行ったのか
現時点では誰も想像できずにいたであろう。

サダルスード「兄さん!兄さん!!兄さん!!!」
 
一方でサダルスードは地に倒れ血を流す己の兄サダルメリクの身体を揺らす。
 
アルレシャ「…無理だ、サダルスード。サダルメリクの体はもう助からん。そいつは死んでいる」
 
サダルスード「違う…!嘘だ…!兄さんが死ぬ、もんか…!
兄さんが僕をおいて…死ぬはずが、ないんだよ!!」
 
サダルメードのまさに聞き分けのない稚児同様な言葉を聞き
僅かに不快気に顔を歪ませるアルレシャであったが、その瞬間、彼女は“ある気配”を感じ取った。
 
アルレシャ「…これは……」
 
ベテルギウス「どうやら神の座から数人が空間を隔てて飛ばされたみたいね。
この星王殿近くの森ってところかしら」

同じく気配を感じ取ったベテルギウスが彼女の台詞を継ぐ。

アルレシャ「私が行こう」
 
言ってアルレシャはその場から離れ始める。
 
ベテルギウス「ちょっとちょっと、ここはどうするのよ。
それに神の座へは行かなくていいの」
 
アルレシャ「神の座へ行く為には神の許可が必要だ。
扉が閉められているのならそれは即ち神がいる証。ならば扉の向こうの神は安全であろう。
私はこの星王殿に来た塵の始末をしてくるまでだ」

その言葉を告げ、アルレシャは姿を消す。
 
ベテルギウス「やれやれ…」
 
一人残ったベテルギウスは取り乱し続けるサダルスードを見て呟く。
そこにはプロパテールとしての威厳はなく、まるで小さく無力な子供が
すでに骸となった兄にすがる光景。
それに思わずベテルギウスは現在の自分達の機関の在り様を重ねるように見た。
 
ベテルギウス「…だけどもし…この神の座の向こうにいる神が
イシュタル様でなかったら…もうアタシ達、機関の存在は終わりね」
 
◆    ◆    ◆

ルナ:(ベテルギウス、流石に鋭い)

ミシュラ:(アケルナルのたくらみにも最初から全部気づいていたような気すらする。べっさん凄い)

――雨。

ミシュラ達の頬を叩くように雨が振っていた。
 
ミシュラ達はあの神の座で神の降臨を見た。
だが、それと同時にそのあまりに桁外れな力により
次元の壁より吹き飛ばされ、この場所へと落ちた。

そこは地上に座す星王殿が遠くに見える森の中。

そんな先ほどまでの激戦地とはかけ離れた場所にミシュラ、ルナ、カストルはいた。
その身はもはや全員が戦える姿ではない。

ミシュラ:痛みが走る体をゆっくりと起こす。
雨が冷たく肌を伝う…
「かっちゃん…?ルナっち…?」
掠れる声で2人に呼びかけ、あたりを見回す。

GM(カストル):「ミシュラ…?」
君の声にカストルが反応する。

ルナ:「ぅぅ……」
冷たい水が痛い。
「……ぁっ、痛」
体中が痛い……。痛みで眼が覚める。
「ミシュラ……様?」

ミシュラ:2人とも居る。生きている。
その事実に安堵を覚え、はいずり二人の傍へ近付く。

GM(カストル):「無事で…良かったよ…ミシュラ…」
彼女もまた満身創痍なのだろう身体の半分が動かないようだ。

ミシュラ:イシュタルは倒せた。星を喰らわれる事も防げた。
良い事だけを考えよう。良い事は、明日に繋がっていく道になるから。
「うん…帰ろう。皆で」
ポルクスの星宝を握り締めて言う。

GM:その時、不意に暗闇の森の向こうから君達を声をかける人物が現れる。

「…ミシュラ、カストル、それにルナ。無事だったのか」

GM:声の掛かった方を向くとそこにいたのは紛れも無くエルナトの姿。
彼は森の向こうから君たちの前へ姿を現す。

ミシュラ:「エルっち!…無事でよかった。本当に」
目が覚めたルナを優しく地面に寝かせて言う。

GM(エルナト):「…その様子では、神に会ってきたんだな」
彼は君達の様子を見て、そう語る。

ミシュラ:頷きを返し、手短にあった事を伝える。
「―――それで、アケルナルサマが神になった。
気づいたらここにいたんだ」

GM(エルナト):「…そうか」
全ての事情を聞き終え、彼はいつもと変わらずただ冷静なまま一言そう頷く。
「…ならばミシュラ、カストル。お前達も聞いたのだなデミウルゴスが人になれないことを」

ミシュラ:「うん。でも、諦めてないよ。デミウルゴスの身でも心を持つ方法が絶対ある筈。
何年かかっても、きっと見つけてみせる」

GM(エルナト):「ミシュラ、私は人になる事を諦めない。
私は私の手段で人になる、人に近づく」

ルナ:…一つだけ、一つだけあるわ。
反魂を使えば、体だけは……。

GM:それもある。身体だけは人間になれますね。
「だから、お前達に別れを言いにきた」
そう彼は告げる。

ルナ:どういう意味だ?

ミシュラ:「エルっち…?」
怪訝そうに問い、彼の瞳を見る。
…いや、判っている。数百年間ずっと一緒に居た仲だ。

GM(エルナト):「人が持つイデア。それを大量に吸収すれば
我らデミウルゴスが持つ霊質デュナミスは人間と同じイデアに変わるかもしれない」
それは即ち人間を大量に殺める事で、彼らの霊質を奪うということ。

ルナ:「……無駄です」
体を起こすよ。

GM(エルナト):「そうかもしれない。だが可能性は0ではないはず」

ルナ:「可能性すら、ありません。取り込んだイデアがデュナミスに変質するのがオチです」

GM(エルナト):「それでも私は行う。それが私の道だ、後悔などは決してしない」

ミシュラ:「そんな事をして…良いと思ってるの?」
それではイシュタルのやった、自分が神の体を手にするために世界を喰らう行為とまったく同じだ。
そんな行為を看過する事は出来ない。
「他にも方法はある筈。エルっちは、それでも尚人間になれる可能性にかけて人を殺すんだね」
確認するように問う。

GM(エルナト):「それでなれないなら別の方法を。それでもだめなら更に別の方法。
私は最後まで人間となる事を諦めはしない。…だからこそ、お前達に別れを告げにきた」
と彼は自分のやろうとしている事、その非道さと悲劇を理解しているからこそ
決別を胸に君たちの前に現れた。

ルナ:(あの悲劇は、確定事項……か。)

GM(エルナト):「……もはや私は正道を歩く事はできない。
故にお前達と共に歩む道もここまでであろう」
そういう彼は言葉の裏にはもはや自分のような神人がミシュラの隣に並ぶ価値などないと
ゆえに自ら身を引き、堕ちるべき場所へ堕ちるかのように呟いた。

ルナ:「何故、そこまで人になりたいの?この身は、不便よ」

GM(エルナト):「理由は無い。ただなりたい。
それが私の何も無い空っぽの心でたった一つ確かなものだから」

ミシュラ:「うん…ずっと一緒だったけど…残念だよ」
ぽつりと呟き、続ける。
「人間になれるといいね。エルっち」
それだけ言って俯く。 痛いほど良く判る。彼が人間になりたいという気持ちは。

GM(エルナト):「…ああ、ありがとう。ミシュラ」

ルナ:今の私たちに、彼は止められない。見送ることしか出来ない…。

GM(エルナト):「お前達も…決して後悔しない道を最後まで歩んでいけ」

ルナ:「エルナト様、お元気で」

GM:彼は最後に微笑んだ。
それはそう見えただけで本当はいつもと変わらない表情だったかもしれない。
だが君達の中で彼は確かに、微笑んでいた。

やがて、エルナトは運命の終着点。帝国領のある村でその最後を遂げるだろう。

だが彼は最後の瞬間まで決して、後悔をしなかった。
 
◆    ◆    ◆

GM:エルナトが去ったあと、君達も移動をしようとした時だった。
「これからは…どこか綺麗なところでゆっくり暮らそう、ミシュラ」
カストルが満身創痍の身体で君へ微笑む。

ミシュラ:その言葉に何故だか涙が出そうになる。
「うん」 そう言って、微笑みを返したかったが 何故だろう涙が溢れ出る。
カストルに顔を見られないよう俯き、顔を拭いて続ける。
「ずっと一緒に暮らそう、かっちゃん」

「いいや。お前達が行くべき場所は唯一つ、この世の何処にも無い場所。死への道のみだ」
 
聞こえる声。振り続ける雨。
 
その向こうで、君達の眼前に彼女はいた。
 
プロパテール4“無双者”アルレシャ。
 
“ざああぁぁぁぁぁ――”

ルナ:「やっと、来ましたか。遅かったですね……貴方ならもっと速くこれたのでは?」

GM(アルレシャ):「…フンッ、その態度だけは相変わらずだな」
彼女は君のそんな皮肉を以前対峙した時同様、虫けらの戯言として軽く聞き流す。

――雨が降る。
 
物語の最後を奏でるように。
 
――雨が降る。

ルナ:「ミシュラ様、カストル様、お逃げください。私は戦って勝てるとは思いませんもの。
だからせめて、生き延びて」剣を抜く。

ミシュラ:「……」
アルレシャをぼんやりと見る。
「…貴方の大嫌いなアケルナルは、イシュタル様を殺して神になったよ。アルレシャ様」
それでも尚 自分の使命を成し遂げようと言うのか。

GM(アルレシャ):「………」
その台詞を受け、ぴくりと彼女の耳が動く。
「そうか」

ルナ:ボロボロの体で、ミシュラの前に出る。
「早くお逃げください」

GM(アルレシャ):「ならばお前達を殺した後で、アケルナルを殺すまでだ」
彼女の瞳は変わらない。アケルナルに関わる者全てへに向けられる刃。
なにが彼女をそこまでさせるのか。だが、一つだけ分かる事は
彼女のこの決意だけは決して変わらないだろうという事。

ミシュラ:「ああ…」
そうか、アルレシャ様。貴方はいつもそうでしたね。
いつもいつも真っ直ぐで、その実直さを僕は苦手だったけれど。確かに尊敬していた。
「…僕の命だけで、2人の事は見逃してくれませんか」
呟くように だがしっかりと彼女に話す。
「今回の事は、僕が皆をそそのかしてやった事です。かっちゃんにもルナっちにも
何の罪もありません。どうか どうか2人の命だけは助けてくれませんか」
そう言って、ルナの前に出ます。

ルナ:「ミシュラ様……」
そんなことしても……。

GM(アルレシャ):「理解できないな。何故、お前がそこまでする。
それに一つ言っておこう。そちらのカストルは許せてもルナだけは…
奴のスペアだけはその存在を許してはおけない」
アルレシャの瞳は変わらず冷酷なまま君とルナを射抜くそう宣言する。

ルナ:「ね、ミシュラ様。ダメなんです。私自分でわかるんです。私はここで死ぬんです。
アケルナル様のお役には十分立てました。幸せも享受できました。分不相応な力も得られました。
満足ですよ……だからミシュラ様、貴方がお逃げになって?」

ミシュラ:「幸せになりたいという気持ちは、皆同じだからです」
ルナを制して言う。
「ルナっちは本当は普通の女の子だった筈なんだ。かっちゃんだって普通の幸せを求めて何が悪い。
アルレシャ様だって、デミウルゴスだといっても感情があるはずだ!
いくら否定しても僕は知っている。ここで見逃して尚歯向かうようならその時は戦っても仕方ない。
ですが、この場だけは見逃してくださいと言っているんです。
ルナっちも、もうアケルナルのスペアなんかじゃない。幸せを享受していいはずなんです!」

ルナ:「ミシュラ様……」

GM(アルレシャ):「…確かにお前の言う通りお前達には幸せを手にする資格があるかもしれん。
それは人がもつ、幸せを求めるという当然の感情だろう」
だが、とアルレシャは付け加える。
「言ったな私にも感情があると。ああ、確かにそうかもしれん。
私には恐らく感情がある。たった一つの強い感情が」
言って彼女は普段の彼女からは想像だに出来ない強い感情を込めた瞳を持って
初めて感情を込めた怒号を言い放つ。
 
「それがここでお前達を殺しアケルナルを殺すという感情、使命!
あるいは憎悪かもしれない!いずれにしても、道は一つだ!」
 
彼女は叫ぶ。
それは恐らく、彼女の生まれてから初めての魂の叫び。
 
「お前達が幸せを手にしたいというのなら!私を倒し、その先に掴んで見せろ!」

ミシュラ:「…そう。ならば本当に道はないんでしょう、アルレシャ」
エルっちが かっちゃんが人間になりたいと望むのと同じように。
彼女もまたその憎悪を消す事が出来ないのだとしたら。
ここで逃げても―――恐らく彼女は、地の果てまで追ってきて僕達を殺すだろう。
槍と鎖を手に、アルレシャに向き直る。
「ルナっち、かっちゃん。逃げる事は出来ない。いくよ」

今、物語最後を。その悲劇的な終焉を奏でるために。
静かに幕を上げる。

ルナ:「……」無言で頷こう。どうすればいいか、わからないけど。

そこはただ雨だけが降り注ぐ、静かな森の中だった―――。

 
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