第七章「美麗の蝶」
◆ミドルシーン5 〜発芽〜
GM(カストル):「ミシュラ…すごい…やっぱりミシュラは私達とは違うデミウルゴスだね」
向かってくる君へ微笑みを浮かべてそう言うカストル。
傷はまだ重傷だけどそれでもよろよろと立ち上がり君の方へと向かう。

ミシュラ:急いで彼女の体を支えよう。今は無理をしないで欲しい。
「そんな事ないよ…それより、傷は大丈夫なの?」

GM:では彼女の身体を支えようとした刹那。
君と彼女、二人の間に刹那にも見たいない瞬間に一人の女性が現れる。
それは超速能力を得たミシュラですら感知できなかった秒にも満たない瞬時の出来事。

純白のコート。
機関最高位の称号を表すコートをその身に包んだ女性にミシュラもルナも見覚えがあった。

GM(アルレシャ):「ここまでだ、反逆者。お前たちはここで死ぬ」

ミシュラ:「アルレシャ…さん」

ルナ:「アルレシャ様……」

GM:プロパテール4の称号を持つ女性・アルレシャは君達を見て告げる。
「…ミシュラ、卿には同じ機関メンバーとして情けはある。
故に、この場での名誉ある自決を許すぞ」

ミシュラ:アルレんと呼んでフルヌッコにされて以来、彼女の事はどうも苦手だ。
だが、今は譲れないものがある。
「そこをどいて下さい、アルレシャさん。かっちゃんを介抱しなきゃ」
焦りが口調に含まれるのが判る。

GM(アルレシャ):「ならば私を越えて移動してみたらどうだ?卿のその星宝で」

ミシュラ:「……」 一瞬の間の後、刹那。
<超速能力>による極速をもってアルレシャをすり抜けようと試みる。

GM:それは―――ミシュラ・アルレシャ両者以外には何が起こったのかすら理解できない
超速の出来事だった。
君は星宝を超速現象型最高のスピードを誇る【超越音速(バステト・ソニック)】にて
刹那にも満たない瞬間に最高スピードへ達する瞬間に
彼女は“それを上回るスピード”をもって君の身体へ蹴りを放ち
君は超速の出鼻を折られ、遥か後方の壁におおきく激突。肋骨・利き腕、足を折られ
その衝撃で壁も崩れその向こう側へと斃れ伏した。

ミシュラ:「…っ<振動速移動>―――!」
加速が、間に合わない。振動波化も『出来なければ意味が無い』。

GM:ルナからすれば、気づけばミシュラの姿が消え、後方に穴が空いてる状態だ。

ルナ:「いま……なにが?」

GM(アルレシャ):「これが最高のスピードを誇る星宝か。この程度…“素”で到達できる」
彼女は星宝を使っていない。ただ普通に先手を打ち、“君より早く行動しただけ”
それは星宝などでは到底埋められないもっと根本的な生き物としてのスペックの違い。
ただ圧倒的に強く、圧倒的に速い。
それが目の前の最強のプロパテール・アルレシャの強さ。

ミシュラ:半身がひしゃげている感覚がある。息が肺腑から漏れ出る…
兵法における『先の先』。彼女の行う動作はそのさらに先の―――否、『別の次元』のものだ。
唯、圧倒的。アルレシャの強さというものはそういうものだ。
久しく忘れていた―――技能では埋められない差異というものを。

ルナ:「何が起こったの一体!?」

GM(アルレシャ):「星宝などでは埋められない差。それが我らプロパテールの強さ。
完全なる神人の領域だ。卿らのような“人より秀でた程度”の人種では及びもつかない領域だ」
ミシュラの傷とダメージを見て、アルレシャは標的をルナの方へと移し君の前まで来る。

ルナ:「っ!」(見えなかった――)

GM(アルレシャ):「もはやお前にかける情けは無い。裏切り者の人間。
だが一つだけお前に問うておくことがある」

ルナ:「何を?」

GM:それは敵を見るのでもなく、ただ物を見る眼でアルレシャは冷徹に聞く。
「『反魂(エイドス)』はどこだ?」
それは君からすれば突拍子も無く、また答えられるはずもない質問。

ルナ:「ガドフリート様に聞いてくださいな。私は存じませんわ」

GM(アルレシャ):「そんなはずは無いだろう。“お前は知っているはずだ”
もう一度聞く、『反魂(エイドス)』はどこだ?」

ルナ:「ガドフリート様には会いましたが、『反魂』については存じ上げません」

GM(アルレシャ):「ガドフリートなどどうでもいい。私が聞きたいのは『反魂(エネルゲイア)』の在り処。
そしてアケルナルは何を考えている。答えろ」

ルナ:「アケルナル様の真意を聞きに戻ってきたのです。知るはずもありません」

GM(アルレシャ):「そうか、もういい」

ルナ:「ですか」

GM:静かに冷徹に言い捨て、アルレシャは手を上げる。
それは手刀。だがそこから放たれるのは神すらも傷付ける断罪の処刑刃。
 
GM(アルレシャ):「少なくともお前が死ねば、アケルナルの目的到達は不可能になるだろう。
せめてもの慈悲だ。苦しむ事無く一瞬で終わらせてやろう」

ルナ:「一つだけご忠告を。眉を吊り上げてばかりいては、幸運が逃げてしまいますわ」

GM(アルレシャ):「………」
その言葉に返す事無く、ただ静かに手刀は―――振り下ろされた。

『――どくんッ』

それは鼓動の音。

ルナの中で広がった何かが目覚め、発芽する音。

ルナ:「……ぁ」

GM:それは偶然か、あるいは先程のカストルの【豊穣の加護(ヴァナディース)】の影響か。
君は――“それ”は覚醒を迎える。

◆   ◆   ◆

『ぶしゃああぁぁぁぁ!!』

GM(アルレシャ):「―――!」
刹那の後、血を流したのはアルレシャだった。
“君”が放った一閃は彼女の手刀より早く彼女の腕を切った。
だが咄嗟に後ろに下がったのはさすがだ。あのまま腕を落すつもりだったのに。
“相変わらず”彼女の先天的戦闘センスは素晴らしい。

「……貴様…」

アルレシャは右手首を押さえながら“君”を見る。

ルナ:「……」――

GM:ミシュラ、そして倒れたカストルは見た。
ゆらりと立ち上がったルナ。
その彼女が次に移動した瞬間にはすでにアルレシャと数千激と打ち合った後だった。
両者の身体に無数の傷が開き、血が流れるよりはやく次の攻防、次の傷が開かれる。

ルナ:「相変わらず……ね」

GM(アルレシャ):「……なんだ、これは、何のつもりだ…“貴様”」

ルナ:「少し、頑張った? フェイントが増えてるけど……甘いわね」

GM:徐々にスピードを上げるアルレシャ。
だがそれに随時追いつく君。この戦いも実に200年振りだろうか。懐かしさに君は笑みが出る。

ルナ:「ふふっ」

GM(アルレシャ):「貴様…あの時の…真似事か…その小娘の身体で…人間の身体で…」

ルナ:「あら、分かっちゃった?」くすくす……。

GM:攻防。肩を貫かれれば貫き返し、腕を折られれば折り返す。
獣の喰らいあい。神々の殺し合い。
すでに両者がいるフロアは微塵と化し、灰すらも残っていない。
「……どこまで、私を愚弄すれば気がすむ…貴様は、貴様は……」
 
「貴様あああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

激昂。

それは普段、見せることが無い彼女の姿。

ルナ:「だめだめ。貴方は少し感情を抑えないと」

GM:姿が掻き消えるアルレシャ。それに反応しようと君もまた速度を上げようとするが――

ルナ:「あら?」

GM:“がしッ”君はその顔をアルレシャの手で捕らえられる。そして―――

『どごおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!』

そのまま地面へと叩きつけられる。
否、地面に叩きつけたままそれは陥没し、亀裂が走り、下へ下へ、遥か下へと叩きつけられる。
これからが楽しめるというのに…何とも脆い。人間の身体は。
すでに身体のほとんどの機能を今の一撃で潰され、“君”は意識のみしか残っていなかった。

ルナ:(脆いのね、人の体は……)

GM(アルレシャ):「…殺すッ、殺してやるッ、貴様は…貴様だけは…!
貴様の存在だけは私がこの手で抹殺するッ!!」
それはまさにアルレシャの奥底に隠れていた彼女の本当の素顔か。
普段の姿、そして戦う姿もまた美しく気に入っていたが。
これもなかなかどうして魅力ある。“君”は知らずに笑みを浮かべていた。

ルナ:(本当に、可愛いわ……)

GM(アルレシャ):「死ねえええええええぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」

ルナ:(残念)

GM:君へ止めの一撃を放つアルレシャ。
だがそれは無粋な第三者によって止められた。

『がきぃぃぃぃん!!』

それは“君”の中の“ルナ”の記憶が知る人物。ガドフリートだった。

そうして“君”の意識は消えた―――。

◆   ◆   ◆

ルナ:(なに……? 体中が痛い……)

GM(アルレシャ):「貴様は…ガドフリート…どけ!どけ!!そいつを殺す!!どけぇぇぇぇ!!!」
「驚いた…。完璧なデミウルゴスと思ってこんな感情なんて無いと思っていた
アルレシャがこうまで激昂するとはな。何があったのか深く聞きたいな」
ガドフリートはそう言いつつも表情には一切の余裕は無い。
アルレシャの戦闘能力は全てのプロパテール最強。
如何に同じプロパテールのガドフリートとはいえ、正面から戦えば敗北は必須。

「仕方ない……――やるか」

言ってガーディは左手をそっと顔に置く。
そして発露するのは魂を揺らす大いなる現象。

「【魂の仮面(イデア・マスカレード)】」

その言葉と同時にガーディの顔に出現するのは仮面。
だが、その仮面を装着した瞬間に彼の放つ気配全てが変わった。

「“蒼の光(イノセントアーク)”!!」

それは彼の手から生み出された大いなる蒼き光。
それに押され離れるアルレシャ、そこへ瞬時に別の仮面を付け直したガーディが向かう。

「――“死の一閃”!!」

ミシュラ:(なんつう技だ、これはセイバーの世界観ならでは。燃える!)

ルナ:(魂の仮面……まさか)

GM:ぶしゃあああぁぁぁ!!
その右腕に生まれたのは真紅の腕と融合した異形の剣。
「―――ッ!くぅッ!!」
その一撃を受ければ計り知れぬダメージを受けると確信したアルレシャそれを身をひねり
なんとか避ける。だが、さらにそこへ向かう追い討ち――

「“剣聖一閃”!!」

『ずばああああぁぁぁぁん!!!』

ルナ:なんと!

GM:光と共に放った次元すらも歪ませる一撃。
それを受け、さすがのアルレシャも大きく後退を余儀なくされる。
「――ここまでだな」
言ってガーディは付けていた仮面を砕き、外す。

ルナ:「あぅ……」呻くけど、動けないや

GM:見るとミシュラとカストルを担いだエルナトがガーディの背後に来ていた。
そして、ガーディは呻くルナをゆっくり抱き起こす。
「安心しろ。もう大丈夫だ」

ルナ:「う、ん……」 目を閉じようか。

GM(アルレシャ):「待てぇ!!逃がすか!!!」
激昂し瞬時に移動を開始しようとするアルレシャ。だがそれより早くガーディが動いた。
「わりぃな。退散させてもらうぜ、アルレシャさん」
懐より取り出した空間水によりルナ、ガーディ、ミシュラ、カストル、エルナトは消えた。
消え去った虚空に刹那遅れてアルレシャの拳が振り下ろされた。
それは再び地面を砕き、陥没させるほどだったが…。
彼女の様子はそれをまるで意に返さぬ程に激しい感情に渦巻いていた。

「……ふざけるな…私を私を……貴様は……―――――――」

最後は誰にも聞かれないほどの声でアルレシャは呟いた―――。


◆??? 〜美麗の蝶〜

「――どういうつもりだ」

戦いが終わり、判決が下り、そして全てが終わった後
彼女は“君”へそう言ってきた。

「どうとは、何がだ?」
 
“君”のその言葉を受け、彼女・アルレシャは明らかな不快の表情を浮べていた。
 
「さっきの戦い…なぜ星宝を使わなかった?手を抜いたのか、貴様…」
 
なるほど。そう言ってくる彼女に“君”はどこか愛らしさを覚え
笑みを浮かべたまま答えた。
 
「私は全力を出したよ。星宝を使う前にお前の拳が私に届いていた。
使っていたとしても結果は同じだっただろう」

「ふざけているのか」

「私は真面目だよ」

“君”の答えに納得をしない彼女。
そこで“君”は仕方なく、“本当の理由”を彼女へ告げる。

「見惚れていた」

「……なに」

「お前の戦う姿。その美しさに見惚れていた」

「……ッ」

「まるで戦場を舞う美麗の蝶のようだった。
美しさも強さのひとつなれば、私の敗北の要因としては十分だ。
満足したか、アルレシャ」

そう言って“君”は機関本部へ向かう。
恐らく、明日にはこの機関の統治者0の発表が行なわれるだろう。

その“戦闘能力だけ”を見れば、彼女で決まりは間違いない。
だが彼女には―――そこまで考え、“君”は再び笑みを浮かべる。
どちらにしても“君”にとっては僥倖。あとは流れに身を任せるのみ。

そして“君”が去った後でアルレシャはただ静かに拳を握っていた。

彼女の中にある感情。それが何であるのか、彼女自身も理解できないまま
彼女は“君”とは別の方向から機関本部へと戻った――。

 
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