◆ミドルシーン6 〜想いを継ぐ者〜
深夜。帝城の地下牢にて捕らわれたままのクフィル・ライラ・レイル。 しかし、そんな彼らの牢の前に昼に現れた男、イーグルが再びその姿を現す。 GM(イーグル):「殿下。お待たせしました。脱出の機会が巡ってきましたよ」 それは確信に満ち溢れた笑みを浮かべたイーグルの断言。 クフィル:「そいつぁ何よりだ。俺もこの状態は飽きてきたしな」 ライラ:隣の部屋から、ごろりごろり、がつん。とか聞こえてきます。 GM(イーグル):「すぐに頼もしい味方が来ます。 …っと、もう来たようですね。さすがに早い」 その瞬間、地下牢に続く扉が開く音が響き、この地下牢へ二人の人物が姿を現す。 それはレクトルとアスタロトの二人の姿。 「…どうやら無事のようだな。クフィル」 とレクトルは無事な君達の姿を確認して声を掛ける。 クフィル:「よぉ。帝国の牢屋は中々快適だったぜ?」 アスタロト:「本当に申し訳ありません、私、ひどい誤解を…!」 クフィル:「ははッ、気にすんなって。別にどうってこたぁねぇよ」 GM(レクトル):「話しは後にしよう。今はそこからお前たちを出す。少し下がっていろ」 ライラ:ごろごろ(移動 GM:君達が少し牢の鉄格から離れたのを確認し レクトルはその一刀を君達の牢の鉄格へと放つ。 “ばきいいいん!!” 金属の砕ける音と共に君達を捕らえていた牢の扉は完全に砕け散る。 続けてレクトルはライラの前まで移動し 「…そこのマシーナリー、動くな。お前に掛けられている呪縛も解く」 言ってレクトルはライラの前まで来てその剣を振るう。 それだけでライラを拘束していた枷は完全に砕け、君は半日ぶりに自由を取り戻す。 ライラ:「有難う御座います。――状況からして、拘束するなとは申しませんが。 簀巻きは勘弁していただきたかった」 GM(レクトル):「…それはすまなかった。 だが、どうにもお前は特別製のマシーナリーらしいからな。察してくれ」 ライラ:手足の関節の動作確認をしつつ 「不可抗力だったと認識しておきます。……して、状況は?」 GM(レクトル):「お前たちが陰謀に巻き込まれた事は気づいているのだろう。 オレはそれに加担していた。『機関』と呼ばれる存在にな。 本来ならオレが皇帝となりお前たちの国、王国と戦争を起こすのが 連中の当初の目的だった。だが、オレはもう奴らの方針に従うつもりは無い。 この戦争を止める。そのためにもお前たちを無事に王国まで送り届ける」 とそこまで現状の説明をしたレクトルは君達を見回し補足するように言う。 「…そんな所だ。お前たちを嵌めたオレの言葉を信じてくれるならな」 ライラ:クフィル&レイルの方を「如何いたしましょうか?」な感じで見やります。 クフィル:「…答えならとっくに出てるさ。 俺は先刻言ったはずだぜ。『アンタの言葉信じよう』ってな」 GM(レイル):「そうだね。レクトルの言う事が事実なら、この状況で助けに来る事、事態が 彼の言葉の真実を示している。僕も信じるよ。だから、ライラ、ここは彼を信じて行動しよう」 ライラ:「仰せのままに、マスター。ではわたしも、あなたの言葉を信じましょう」 そう言いつつレクトルにも一礼、非礼を詫びるように。 アスタロト:「皆さん…!ありがとうございます!」 アスタロトはその目にうっすら涙をにじませて、クフィルたちにお辞儀をする。 クフィル:「別に礼言われる事じゃねぇって。むしろ俺の方こそ礼を言わせて欲しい、ありがとな」 GM(レクトル):「こちらこそ、ありがとう。クフィル」 彼は君の瞳を真っ直ぐ見て、心の底から君の信頼に礼を言う。 クフィル:「だから別にいいって言ってンじゃねぇか。照れるだろ」 レクトルの眼をまっすぐ見て、ニヤリと笑う。 GM(レクトル):「…そうだな。ではこの場は急ごう。すでに帝城にはオレの裏切りが伝わっている。 『機関』のこの国における支配力は尋常ではない。 オレやお前たちを抹殺するためにこの城の兵や機関の手の者が動いているはずだ」 クフィル:「つーかよ、まずは帝国の方を止めねぇとアンタの方が危ねーんじゃねぇか?」 軽く屈伸をして体をほぐしつつレクトルに。 GM(レクトル):「言っただろう。オレの裏切りはもう『機関』に知られている。 そしてこの帝国の支配者は皇帝ではなく『天皇大帝』と呼ばれる存在。彼は『機関』の一員だ。 もうオレの帝国における地位は無いに等しい。ならばこの場は一刻も早く、脱出するのが先だ」 クフィル:「んじゃ、王国に来るか?」 GM:その言葉に少し驚くレクトルだが。 「…フッ、そうだな、それも悪くないな」 クフィル:「だろ?ま、取りあえずだ。今は無事に王国まで辿り着くのが先決、だな」 GM(レクトル):「そう言う事だな」 言ってレクトルは君達を先導するように牢の入り口へと向かう。 GM:レクトルの先導を受け、君達は帝城の中を走る。 しかし先程のレクトルの言葉通り、機関の手の者、あるいはレクトルの裏切りを 知った兵士達が襲ってくるが君達とレクトルによってそいつらの撃退は容易にできた。 そして帝城の出口付近まで近づいたところで君達の前に一人の人物の影が現れる。 ライラ:万一に備えて守護陣の発動をスタンバイ中。 GM:その人物にアスタロト、レクトルは見覚えがあった。 「…カールか」 そう、七将王の一人にして“賢王”の異名を持つ男・カール=フォン=フェルナルドが 君達の行く手を遮るように立ちはだかる。 「…まさか、本当に貴方が謀反をおこすとはレクトル殿。…それに、アスタロト…」 アスタロト:「もしかして…カール様も…『機関』に?」 GM(カール):「…『機関』?なんだ、それは?」 彼は機関と言う単語を始めて聞いたのだろう。疑問の表情と声を出す。 「…アスタロト。カールは機関の手の者ではない。 恐らくオレの謀反を聞いて止めに来た。そう言う事だろう」 とアスタロトにレクトルが隣りから囁く。 一方のカールは苦渋の決断をするが如く、表情を変え君達を見据える。 「…私は帝国に仕える七将王の一人。いくら七将王の統括であり、 第一皇子でもある貴方であろうと…帝国への謀反者は許すわけにはいかない」 言ってカールは黒いコートを翻し、構える。 クフィル:「なぁ、ソイツはアンタの意思なのか?それとも命令か?」 ライラ:後方にて、戦闘の気配を察知しGN粒子(仮)を散布中。 GM(カール):「意志だ。私は100年以上に渡りこの帝国を支え続けてきたのだ。 その鉄の意志を曲げる事はできない」 クフィル:「アンタは本気でレクトルが謀反を起こすような男だと思ってンのか?」 GM(カール):「………」 クフィル:「確かにアンタが帝国に使えた100年ってのは重いだろうさ」 賢王と呼ばれる男に静かに問いかける。 「けどよ、コイツと直に話し、共に行動したアンタなら解るンじゃねぇか?」 その眼には一欠けらの恐れも無く。 「レクトルは謀反なんて真似するような男じゃねぇって事くらいよ」 ただ目の前の男の本心を引き出すために。 GM:君のその言葉を正面から受け、カールは君の隣にいるレクトルの瞳を見る。 その瞳には一点の汚れも浮かんではいなかった。 「…噂には聞いていましたが、貴方は誠に王の器を持つ人物ですね。クフィル王子」 クフィル:「俺はそんな大したモンじゃねぇよ。 ただ、己の思うままに生きてるだけの我が儘なガキさ」 先程までの様子が嘘のように子供の様な笑みを浮かべる。 GM(カール):「いえ、それだけ貴方自身の意志をはっきりと申し 他人に左右されない道はまさに王道ですよ。クフィル王子。 さすがは――イーグルが認めた男ですね」 ライラ:(なぜここでイーグルの名前がでるのだらう) GM:そのカールの言葉に反応するようにクフィルの後ろに控えていたイーグルが前に出る。 「…お久しぶりです。カール師匠」 とイーグルは目の前にいるカールに対しそう呼びかける。 「…10年前にふらりといなくなったかと思えば随分と立派な君主を見つけたな、イーグル」 言ってカールは構えを解く。 「…私は帝国の七将王。ですが、その前に私はレクトル皇子の教育係であり、 そちらの不肖の弟子・イーグルの師でもある」 言ってカールはしばらく考えるような仕草を見せ、やがて意を決したように 「…この先の出口はすでに封鎖されています。こちらへ来てください」 と言ってカールは正面の通路から離れた場所へと移動する。 そこはわき道に入った場所であり、一見するとただの行き止まり。 だが、その行き止まりの壁にカールが手を触れた瞬間。そこに通路が現れる。 「…70年ほど前に造られ、そのまま放置されていた非常出口です。 ここからなら兵に見つかる事無く脱出できます」 とカールは君達全員を見て言う。 クフィル:「ありがてぇけど…。ちょいと迎えに行かないといけない奴がいんだよ」 ユニを帝国内に放置する訳にもいかんだろう。 GM(イーグル):「殿下。ユニちゃんならオレがすでに帝国領の外れまで案内してますよ。 ここから脱出すれば合流できると思いますよ」 とイーグルが。 クフィル:「…気が利くじゃねぇか。流石“賢王”の弟子だな」 ちょっと意地悪に笑う。 舞台裏クフィル:イーグルが一晩でやってくれました GM(イーグル):「よ、よしてくださいよ。この人の下にいた頃は思い出したくないんですから…」 クフィル:「ははッ、冗談だって。…んで、アンタはどうすんだ?」 カールの方を向き直って聞いてみる。 GM(カール):「…私は帝国に仕える者です。一緒に行く事はできません。 ですが、帝国に仕える七将王である私は貴方たちがこんな非常口から逃げたのを知りません。 ここから貴方たちを逃がしたのはイーグルの師であり、レクトル殿の教育係でもあるカールです。 …ですので、行って下さい」 そう言ってカールは後ろを振り返る。 クフィル:「礼を言うぜ、カール。アンタに星と剣の加護のあらん事を願う。 今度は茶でも飲み交わしたいもんだぜ」 GM(カール):「…そうですね。いつかそんな時が訪れるのを私も待っています」 クフィル:「必ず来るさ。それを望み、実現させようとしてる奴がいるんだ」 GM(カール):「では、その時までしばしの別れを。 …アスタロト。王国へ行ってもお前の出生の秘密を探す事は諦めるな」 そう最後にカールはアスタロトへと声を掛けた。 アスタロト:「…はい、決して!…カール様も、どうか、ご無事で」 GM(カール):「お前も無事に生き延びろ。…アスタロト」 カールが示した脱出口を使い、君達は帝城から脱出を果たした。 帝城を抜け、クフィル達は森の中を走っている。 向かうは国境のレトの丘。そこまで来れば帝国の兵も追っては来れない。 ユニもすでにそちらへ向かったらしい。 しかし、森へ入って数時間。クフィル達は思いもよらない事態に遭遇していた。 ライラ:迷った、とか。 GM:それはまるで“君達の動きを予測していたかのように”無数の兵士達が待ち構えていた。 いくら前方の敵を切り倒しても次から次へと敵が現れる。 それだけではなく君達を囲むように背後からも無数の軍勢の足音が響いてくる。 すでに連戦を繰り広げ脱出のために足を速める君達は疲労の極みにあった。 それはレクトルもまた同じであった。 : GM(レクトル):「……この布陣…。 まるでオレ達が脱出をするのを見越したかの様な…戦術は…まさか……」 額の汗を拭い、レクトルの息も切れ始めている。 クフィル:「…最初からこうなる事を予想してないと。…ここまで見事な布陣は敷けねぇな」 流石に怪我をさせないように相手を打ち倒すのはしんどい。 ライラ:「カール氏がこちらになびくのも、おそらくは予定してのことでしょうね」 今宵のヘルモクラテスは返り血に塗れておるわ。 ロリメカっ娘には容赦する機能などついてはいないのだ! アスタロト:「このままでは埒が明きません…せめてこの軍勢を率いる将を見つけ出せれば」 GM(レイル):「…このまま進むのは不可能じゃないけど…背後から大軍の来る音が聞こえる。 足音から察するに国境に届く前に追いつかれる。 背後の軍勢に襲われれば…一巻の終わりだよ…」 レイルも冷静に戦況を分析し、そう全員へ伝える。 そのレイルの言葉に同意するようにレクトルは何かを考えながら話す。 「……オレの予想が正しければ、この軍勢を指導している将は 帝城の奥で盤上のようにオレ達の苦戦を眺めているのだろう……。 ならば、この場で取れる国境まで無事に行くための方法は一つしか無いな」 クフィル:「…誰かが殿を務める、か」 GM:立ち止まり、レクトルは意を決したように君達へ宣言する。 「オレが、残る。お前たちはその隙に国境へ向かってくれ」 ライラ:プレイヤー的にはそれが正解なんだけどキャラ的には納得したくないな(´・ω・`) GM:確かにね(笑) クフィル:「やだね」 GM(レクトル):「…クフィル。何を言い出している。 この状況が分かっていないわけではないだろう」 クフィル:「解ってるさ。けど、納得出来るかどうかは別だ」 GM(レクトル):「だが、ここで全員が残ればそれこそオレ達は大群に包囲され殲滅される。 感情で動く事はこの際、切り捨てるべきだろう」 クフィル:「確かに誰かの犠牲無しに切り抜けられない状況かもしれねぇよ。 けどよ、だからと言って、俺は誰かが犠牲になる事を黙って見てなんかいられねぇッ!!」 GM(レクトル):「…クフィル…」 君のその言葉を受け、一瞬驚くがやがて君を正面から見つめレクトルは言葉を出す。 「…全く、本当にお前は大した器の持ち主だな。 例え万に一つの可能性が無くても犠牲の出ない道を探し出し、そこを往く。 それがお前の道、『王道』か」 「誰かを切り捨てなくちゃ歩けねぇ道なんざ。 本当に大切な人間を失った事のねぇ悲観主義者の道だ」 俺が征くのは皆と共に歩む王の道。 ―――それが俺の“王道”だ」 レクトルの眼を見据え、クフィルはただしっかりと応える。 「そうか、ならばお前はその道を貫き通せ。 だがな、クフィル。これだけは覚えておけ。それではお前は“あいつ”には勝てない。 いつか、必ずお前の道を阻むであろう“あいつ”に」 言ってレクトルは目の前にいるクフィルのすぐ眼前まで歩み、そして―― 「そして、お前に託したぞ、クフィル。この戦争を止め、『機関』を潰す事を」 「オレの意志を」 瞬間。 クフィルは腹部に重い一撃を感じる。 それはクフィルの体を貫くような衝撃。その衝撃は脳にまで達する。 「――…ッ!」 意識が、遠のいていく。 解ってた。きっとレクトルならこうするだろうって事は。 アイツの眼を見たときに解ったんだ。 「…最後に酒を飲み交わしたかったものだな…フィル…」 なのに――畜生、意識、が―遠。の――く――…。 「――…レクト、ル」 最後に力を振り絞って手を伸ばす。 その手を掴む感触をクフィルは最後に――感じた。 GM:レクトルは気絶させたクフィルをレイルへと託す。 「この男の事を頼む。この男こそがこれから先において最も必要な男になるはずだ」 「…ええ、分かっています」と静かにレイルはそれを受諾する。 そしてレクトルはライラの方を振り返り…。 「後の護衛は任せたぞ。まだ前方からも敵が来る可能性はあるからな」 ライラ:「了解致しました。(wilco.)微力を尽くします」 GM(レクトル):「――頼んだ」 そして、最後にレクトルはアスタロトの前まで歩を進め、君の前に立つ。 「…アスタロト」 アスタロト:「…はい、レクトル様」 レクトルの話そうとする言葉の一欠片さえ掬い漏らさないようにと、じっと双眸を見つめる。 GM(レクトル):「オレは最後にお前に謝らなければいけない事がある。 2年前にお前を救ったあの時…お前を保護したのは…。 オレ自身が…救われたかったから、なんだ」 アスタロト:「…それは…一体、どういう…?」 GM(レクトル):「…オレには幼い頃に妹が、いた。皇帝に拾われる前の事だ」 戦火がオレのいた故郷を襲った。その戦火は全てを焼き払った。 オレの家も家族も……妹も…」 レクトルはそれまで見せた事の無い深い哀しみの表情を浮けべ続ける。 「オレは無力だった。何も護れず、ただ自分の身が生き延びるためだけに行動をした…。 だから…オレは英雄になろうと誓った。あの時、救えなかったオレの大切な存在 妹や家族達の代わりに多くを救おうと…」 そう言ってレクトルはアスタロトへと顔を向ける。 「お前を救ったのは……オレがお前に妹の面影を重ねていたからだった…。 オレはただ過去の記憶から救われたかったんだ。 なのにお前はいつもオレのために一生懸命だったな…」 一拍置き、レクトルは詫びるようにそして深い感情を込め呟く。 「――すまない。そしてありがとう」 アスタロト:「…そう、だったのですか…。でも、どうか気になさらないでください。 レクトル様だけではありません。誰だって、苦しみから逃れるための救いを求めて生きています。 あなたは、多くの人の『救い』を果たしてこられた――私の時も、それは、同じです」 GM(レクトル):「…アスタロト」 アスタロト:「お互いに助け合って生きているのですから―― あなたがかかえている荷物があるのでしたら、私にもそれを分けてください。…ご武運を祈ります」 レクトルは笑みを浮かべる。 それはアスタロトが見たレクトルの笑みの中で一番優しく柔らかな笑み。 「いつの間にお前はオレを追い越していたのかもしれないな。 オレはひたむきなお前にいつも救われていたよ。 そして、そんなお前にいつの頃か…惹かれていた。 オレ自身、気づくのが少し遅かったがな」 そっとレクトルはアスタロトの手を握る。 「オレの意志、想い。お前に預けてもいいか、アスタロト」 アスタロトはその手をそっと握り返す。 「私も、同じ想いです、レクトル様」 そうしてアスタロトはナハトノーブルの誓いの儀――吸血行為を交わす。 「…アスタロト」 静かにアスタロトは彼の首元の血を軽く吸い、吸血の誓いを果たす。 「――ありがとう。いつか、イデアの海の向こうで再び巡り合おう」 「まだ、希望だけは捨てないでください―― もし、離脱できる機会があれば、お逃げ下さい。 私も、大切な人をもう一度、失いたくありません――」 「ああ、確かに。そうだな」 笑みを浮かべ、レクトルはアスタロトを抱いた後で、そっとアスタロトを離しライラ達へと託す。 「また会おう。アスタロト――」 アスタロトは最後に見た。そのレクトルの優しい笑顔を。 そして、アスタロト達はレクトルの意志を受け取り。彼のためにも走った。 向かうは国境。レトの丘。 背後では無数の軍勢が迫る音と。 静かに遠のいていくレクトルの姿のみが――見えた。 「……フッ、やれやれ」 地を轟かせる音。 それは無数の軍勢が大地を踏みしめる音。 「よくも、これだけの軍勢を集めたな。 やはり、あの会議の時から準備をしていたという事か」 それは地平線の向こうまでも埋め尽くす軍勢。 見回す限りの敵。数万以上に渡る帝国の精鋭騎士――。 レクトルはその軍勢を前に静かに剣を掲げた。 「戦場に立った時点で死は覚悟している。 だが死を甘んじて受けるつもりは毛頭無い」 「―――オレの命が尽き果てようとも、ここから先は―――」 剣を握り、地を踏みしめ、レクトルは吼える。そう彼自身、解っていた。 これが彼に取って最後の戦場。故に――その身は肉の一片、血の一滴、骨の欠片に為ろうとも この戦場だけは決して退かぬ。譲らぬ。敗走せぬ。 勝利もなく、生還も無い。ただ眼前の敵を全て滅ぼす一筋の刃。 「一歩たりとも、行かせはせんッ!!!」 そして、剣は振り下ろされる。 それはかつて“英雄騎士”と呼ばれた男の――最後の戦。 |