第三十七章「王と無垢なる想い」
◆GMシーン 〜神(THE GOD)T〜
その存在は遥か高みに座していた。

浮遊大陸たるベルシェルス、世界の上空にあるその大陸よりも尚高みの天の先。
それは空と呼ばれる天幕を抜けた遥か先の先、天を越す宙、星の宙。

そこにそれはあった。

城、そう呼ぶには余りに不可解で奇妙な創りであり、かといって他に形容しがたい巨大な何か。
深淵の中にあって煌きを放つ、闇や夜の色とも異なる異色の黒。
その星の海の中でその城は眼下に見える世界エル=ユーナを見下ろしていた。

その事実を眼下にいる誰が知っていようか。
そこにいる人々、動物、あらゆる生命に至るまで
全てが観察され、観賞され、吟味されていたという事実に。

それはまさに神の城。
世界と全人類を見下し管理し統制し制裁し抹消するの自在な最も神の城。
故にこの城こそが“そうである”

先日、崩壊した星王殿。
あの場所こそがここへと至る為の唯一の接点、“架け橋”の場所に過ぎなかったという事実。

そう、いわばあれは城における玄関に等しい場所。
城内へ入るために設置された階段。
そう言った場所にしか過ぎないという真実を果たして
あの星王殿に座していた住人にして、神の僕たるデミウルゴス達の何人が知っていたであろうか。

ゆえにこの城こそが“本来の星王殿”
神が住まう真の城《エンピレオ》である。

その神城に座する神は2年前より、その場所を一歩も動く事無く
だが眼下に見える全ての事象・出来事を捉えていた。

『――勝者はユリウス=アーグスト=ラヴァード。覇道を通す覇者であったか』

その存在、あまりにも他と異なる魂の質量。
存在感。圧倒感。絶望感。絶対感。

どのような言葉で評そうとも、その存在を正確に表す事は不可能であろう。
あえて言うならばそれはまさに――“神”
何人も決して及ばず、触れず、また到達できず、もしもこの存在が今、眼下にある世界に降り立てば
それだけで世界最後の大陸は、その圧倒的圧により亀裂が生まれ崩壊するのではないのか。
そう思わせるほどの絶対的な力がその存在にはあった。

「はっ、我が神には見応えのある遊戯を提供するつもりでありましたが…
もう片方の遊戯参加者…クフィル=フォン=アレクサンドロスに関しては
貴方様のご期待に応えられず、その上、こちらの配慮不足もあり
遊戯における楽しみを欠いた事を深くお詫び致します」

そう傅き応えるのは仮面を被った一人のデミウルゴス。
それはつい先ほどまで、眼下の世界に降り立ち機関本部でもあった
仮の星王殿を破壊し遊戯の判定・調整役を担っていた人物。
プロパテール5のガドフリート=アイオニアス。

それは見る者が見れば気が触れかねない事象。
あれほど圧倒的で、神にも匹敵する能力であったガドフリート。
彼が本気になれば機関の残滓など瞬く間に殲滅を行える程の最強の実力者。
だが、その彼が目の前の存在に対し跪き、絶対の服従と忠誠を誓っていた。
それは己では決して目の前の存在に並ぶ事も近づく事も敵わぬと理解しての行為でもあった。

事実、その魂と存在感の圧倒差はどうであろう。
究極位置にあるはずのプロパテール称号を持つガドフリート。
それが目の前の存在と並べられると、なんとも矮小でちっぽけで脆弱に感じられる。
無論、それはガドフリートの力が弱いわけでは決して無い。
これはただ純粋に“比べる存在がおかしい”だけである。

獅子を前に品質のよい猫を並べるように。
星宝を前に最高品質の拳銃を並べるように。
比べるジャンル自体が異なるという事実。

故に、今目の前の存在を前に臆せず媚びず己の言をはっきりと伝える
ガドフートの方が異常であるとも言えるであろう。

「我が神に在らせられましては、退屈極まりない遊戯を提供した事に
我が身の不徳さを遺憾としております。
我が神に対し至高の遊戯を提供できなかった罪
何と成ればこの身を持って償う事も―――」

『構わん』

最高位のデミウルゴスの言葉を遮るは神のその言葉。
もしもただの人間やデミウルゴスがそれを聞けば
それだけで魂が押し潰されるのではないのかと思われる威圧感。
無論、当人にはその自覚もそうした意図も全く無い。
だからこその絶対的な脅威であり、存在。

『あれはあれでなかなかに楽しめた。結果が見えていたのが些か残念ではあるが
それでも無聊の慰めとしては上出来だ。
故にガドフリートよ。お前に対しては咎めるべき要素は皆無だ』

「――ハッ、ありがたきお言葉」

続けて目の前に傅く己の側近に神は問うた。

『それで“我が世界の王”に選ばれたユリウスは帝都へと向かったのか?』

「仰せの通りに。彼自身も言っていました星蝕の回収へと向かいました。
護衛の為にシリウス、ヌンキ、ライラ。三名も同行しております」

『ふむ。そうか』

すでにこの城より眼下で起きていた全ての出来事を捉えていた神ではあるが
確認の為に問うたその問いの答えを得て、どこか愉快そうに続ける。

『星蝕はどの道、回収しなければならぬ。
我が新世界を創生するためにもあれの存在は必要であるからな』

「仰る通りで」

『であれば、現状はこのままユリウスの好きにさせるが良い。
あれはなかなかに私を退屈させない。
或いは私を興じさせる物を魅せてくれるやも知れぬからな』

「はっ」

そうして神が次に続けた意外な言葉にガドフリートは一瞬、意外の念を禁じえなかった。

『それとあのクフィルという者が、もしもほんの僅かでも
私を興じさせる行為を取るならば遊戯の延長を考えなくもない』

それは神の気紛れ。盤上にある駒を別のスペースへと移すそんな類の戯言であったか。
だがいずれにしてもそれにより、再び眼下の世界が揺れる事は間違いはなかった。
当の本人のクフィルもそれに巻き込まれるであろう事は疑いようもない。

「…神のご意志であれば、私はそれに従い行動を起こします。
ですが、そうなると王の選定もやり直しでしょうか?」

『いいや、王はユリウスで決定だ。
あれ以外の王なぞ不要である上、今更“道化(クフィル)”の王座など有り得ぬよ』

道化(クフィル)のこれまでの行動や言、それらを思い出しながら失笑混じりに神は言う。

『私が言う遊戯の延長とはそれとはまた別物だ。
まぁ、それはその時になって明かすとしよう。現状ではまだ可能性の一つに過ぎん。
道化が再び参加者と成り得るかどうかはこれからなのだから』

その神の言葉に従うようにガドフリートは深く頭を下げ、同意の意志を現す。

『あれが私を興じさせた際は再びお前に遣いを任すだろう。
その際は尽力せよ、ガドフリートよ』

「御意に」

己が絶対の主に忠誠を現すその一言を最後にガドフリートは静かに下がる。

そうして神はこの場にいた“もう一人の新たなる配下”へと言葉をかける。

『そして、お前とは二年振りか。久しいな、ベネトナシュ』

それは真紅のコートを着た機関メンバーの一人にして
かつてオグドアスb冠した人物。
シリウスより聞かされた真実を確かめるがままに、この神の城にまで連れて来られた者。

彼は目の前に存在する神の威圧感、それら全てに圧倒されながらも
二年前より忘れ去られていたかつての自分達の統治者の名を口にする。

「…はい、お久しぶりです――アケルナル様」


かつて、その存在はそう呼ばれていた。


かつて、その存在は神が創りし“機関”、それを束ねる統治者0であった。


かつて、その存在は神が創りし“神人(デミウルゴス)”の中で
最高位であり、完全であり、完璧であり、無欠であった。


かつて、その存在はそれ故に全てのデミウルゴス達の憧れであり
象徴であり、神にも等しい絶対であった。


だが、それが故にその存在はこう思った。
“完全(神)”である己が“神(完全)”に仕え続けるという矛盾。


自身がすでに“完全にして完璧であるならば”
それは即ち自身を創造した神がすでに不要であるという事実。


そして何よりもデミウルゴスとして“己(完全)よりも劣ような不完全な神”に仕えるという事は
己の存在(デミウルゴス)への否定ではないだろうか。


故に彼は、その事実を明らかとさせた。


そうして得たものは新時代の神と言う地位にして、完璧を超越した完全。


故に彼は思考した。
もはや神の肉体すら有し完全たる証明を行った自分が成すべき事は何なのかと。
それはかつてあらゆる神々が成し得た所業、それを行う事。
否、それらの所業を上回り真の意味で神すら超越した証明を残すこと。


即ち、新たなる天地開闢、世界の創世、かつてあらゆる神々が成し得なかった
全知全能の完全なる新世界を創造する事。


それこそが神を越え神となった己が成すべき宿業。
なぜなら神とは“そういうものであるのだから”


そこに理屈も理由も一切ない。
神たる存在がなすべきは創造と破壊。
天地開闢に至り世界の創世と、それをなすための旧世界の破壊であるのだから。


完全たる調和を、完全たる未来を、完全なる新世界を。
その完全に選ばれたる人類達を。
そして、それより得られる無限の繁栄と永劫の栄光を。


2年前より、神を殺し神となったその時から
彼はその計画を始動し続けていた。新たなる新世界の到来と創造を。


故に、これより新たなる世界を生み出す為の最後の幕を降ろすとしよう。
王は選定された、やがて鍵(星蝕)も揃い、“世界の基盤”も戻ってくる。


“新世界”


その到来はもう間近に迫っている。


彼――完全なる神“星王アケルナル”は神に相応しい絶対的な微笑みを浮かべ
自身に傅く新たなる配下、ベトナシュを迎え入れた。



◆幕間シーン 〜王と無垢なる想い〜
ミシアン領地。
その朝、帝都へ向かう準備が整った時、肝心なある一人の人物の姿がなかった。
それはクフィル。現在のミシアン領主でありヴァーレンハイト王国の王子。

ライラ:殿下(笑)どこいったんだ(笑)

GM:アスタロトやミュラー、フィーなど万全の状態でそこに集っているが
彼らのリーダーたるクフィルがいないため、皆行動を起こせずにいた。

アスタロト:殿下引きこもってしまった(笑)

GM(ミュラー):「……」
ミュラーは自身の主人が不在のこの状態で何かを考えるように黙っている。

クフィル:フィー「あんな奴おなかが空いたら帰ってくるわよ(ぁ」

GM(フィー):「ねぇねぇ、あんな奴どうでもいいから、さっさと出発しましょうよ〜」KY発言のフィー。

クフィル:流石フィー(笑)

GM:そのフィーの発言に対しミュラーは
「…分かりました。ではそう致しましょう」
と、何を考えているのか同意する。

アスタロト:「ミュラーさん?それ、本当に言ってるんですか…?」

GM(ミュラー):「今、我々が為さねば成らぬ事は帝都にある星蝕の破壊ないし活動の停止。
すでにアスタロトさん達が機関で聞いた情報を整理して、帝都に存在する天皇大帝が
それの起動を行なっていると聞いています。で、あれば天皇大帝が星蝕を起動させるよりも先に
更にはユリウス殿下が星蝕を抑えるよりも先に我々がそこへ辿り着かなければなりません」

クフィル:(ミュラー…俺の書こうとした事全部描いてくれて…いい子や)

GM(ミュラー):「…それに私はフィル様を信頼しております。その御心に疑いなどを持っていません。
故に確信できます――あの御方は必ず来ると」

クフィル:ミュラああぁっぁっぁぁあああああ!!!

GM(ミュラー):「私がこの場で取る行為はただ一つ。あの方が進む道を今のうちに整える事です。
故にアスタロトさん。貴方様もフィル様を信頼されるならば、私と共に帝都へ向かうべきです。
時間はもう無いのですから」

アスタロト:「…殿下なら、必ず、来てくれますよね」

GM(ミュラー):「無論です。あの御方は必ず来ます」
それは一切の疑問も疑いもない忠臣が持つ迷い無き澄んだ瞳。

アスタロト:「…私も信じています。――行きましょう」

GM(ミュラー):「ええ、では行きま―――」
フィー「何だからよく分からないけど、了解よ!いっくわよ〜!いざ帝都〜!お〜〜!」

アスタロト:フィー(爆笑)

GM:どこまでKY娘。それがフィー(笑)
何にしてもアスタロトとミュラー、そしてフィー達は帝都へと向かった。
そうして彼らを見送るユニと領地護衛の為に残るのはガゼル。

しかし、残ったユニはしばし何かを思案した後にある場所へと駆けていく。


◆     ◆     ◆


GM:そこはヴァーレンハイト王城が見下ろせる丘。
かつてそこで男と友は誓いを立てた。共に永遠の友情とこの国を、大陸を変えるという誓いを。

クフィル:何処にも居たく無い。
そう願った瞬間、無意識に【空間飛翔(ベクトル・グライダー)】が発動したのか…この場所に居た。
ファルナスから受け継いだ【漆黒の呪印(ベリル=ベリア)】は
まるで今の自分に力を貸すのを拒否するかのように色を失っている。

GM:眼下に見えるのは城下町を行くかう人々。
皆、誰もが戦争の終結に祝いや喜びの色を隠せずにいる。
安定の平和。クフィルが望んだその光景がひどくぼんやりと遠くに見える。

クフィル:これが結果ならそれでもいい。
人々が幸せなら、自分の存在など些細な事では無いか?そんな言葉が胸を占めていく。

そんな時であった。

GM:「……ぉーぃ!」
遠くから聞こえるのは聞きなれた少女の声。
見ると、君とレイルしか知らないこの丘に、少女――ユニが走り、君のすぐ傍まで近づいてきた。
「ハァハァ…つかれたー。フィルってば、すっごい遠くにいくんだもん。ここまで来るのきつかったよ〜」

クフィル:「お前…どうやって…?」素直な感想。

GM(ユニ):「えへへ〜、内緒だよ〜」
いつもの笑顔を浮かべてユニはそう言う。

クフィル:「そっか…」

GM(ユニ):「ねぇねぇ、フィルって星王殿から戻ってきて
なんか落ち込んでるみたいだけど…何かあったの?」
と彼女は飾る事もなくストレートに聞いてくる。

クフィル:「別に、何もないさ」
そう、自分の生きてきた意味すらも。

GM(ユニ):「………」
そんな君の様子をしばし見ていたユニだが、ふと君の手に触れてる。
その時、感じたのはなんであろうか。そう、温かな温もり。
これはまるで、以前“この場所でまったく同じ体感をした”ような。そんな懐かしい感覚。


「――時に男は大胆に行くものよ」


そう言ったのは君の父。ベテルギウスであった。
かつて、君が兄の死を受け入れ王道を目指そうと決意した日に。彼はそう言った。

「周りの言葉に惑わされて立ち止まるようなら、ダメよ〜。
そうでないと、私のようなスーパーな王には成れないわよ」

いつものふざけた口調・態度のまま言う君の父。
だが不思議とその言葉は君の魂の芯に迫るものがあった。

「まぁ、アタシの言ってるこれは気構えみたいなものかしら。
私はアンタに道を教えるほど、暇人でもないからね〜」

と言いつつ、この親父が遊戯片手に言っていた姿は、印象に残っていて消せない。

クフィル:あぁ、アンタがどんな人間だったとしても…。
俺にとっては誰よりも偉大で尊敬できる王だったよ。

「――父さん」


「――僕はただ自分に出来ることをしたい。それだけなんだ」

それは夕暮れの景色。君が生涯忘れられない光景。
その日、君は彼と出会った。

兄と比べられる毎日。その兄に追いつけない自分の不甲斐なさ。
全てがどうしようもなく、そしてどうでもよくなった頃、この丘で、君はその少年と出会った。

君と同じ年齢であっただろうか。
両親を亡くしたと言ったその少年はただの庶民であり、その階級もおそらく奴隷より
マシ程度の境遇であったのだろう。だが、その少年の持つ輝かしい瞳。
その口から語られる少年の想いの乗った言葉。それらは君が今まで見て聞いたどんな宝石や華美
城内に存在するなによりも鮮明であり、美しく、情熱的だった。

クフィル:黄金。その魂は黄金と呼ぶに相応しい輝きを持っていた。

GM(少年):「僕は君の痛みや苦労は分からないし
君も僕の痛みや苦労は全部は分からないかもしれない。
だけど、理解する事はできるし、それが触れあいだと僕は思う」

言って少年は真っ向から君の瞳を見る。

「その人の事を全部理解しなくてもいい。理解したいと思うのは当然だけど
そう出来ないからこそ、人は自分の中で答えや考えを見つけられる。
そうして、そこから生まれたものが自分の道になるんじゃないかなって僕は思う」

クフィル:その言葉を聞いた瞬間、何故か涙が流れた。

GM(少年):「だから、僕は君と友達になりたいと思う。
それが僕が自分の中で思った僕自身の考え(道)だから」
言って少年は手を差し伸べる。

クフィル:あぁ、今でも鮮明に覚えてる。
同じく手を差し出し、こう言ったんだ。お前は、太陽みたいな奴だな。

GM:それは出会いの記憶。決して色あせぬどんな宝石よりも眩く、何にも比べられない君の“宝物”

クフィル:何よりも、何よりも大切な想い。初めて得た、最高の親友。


「―――男には決して譲れぬ一本の道」

それは眩しくていつも見ていた“彼”の背中。届かない距離。追いつけない領域。
それがどうしようもなくねたましく、だが同時に何よりもの誇りであり自慢でもあった存在。

「…とまぁ、偉そうな事を言うが。オレは別に周りが言うほど大した存在じゃない。
なんていうかなー…つまり、物事の捉え方次第というか。まぁ、ようするにあれだ。
オレの道は他人から見れば“見栄えよく映る”ってだけで
オレ自身は別にそれを見栄えよくしてるつもりも意図もない。これは結果論だな」

言いながら男は続けた。それはまるで遠い未来、君が何かで迷い、悩んだ時
その時に自分が言ったこの台詞を思い出して欲しいかのように。

「だから、憧れっていうのはそいつの道をならすための一種の手法だと思うわけだよ。
いい手本を見て、それに習うってのは昔からよくあるしな。
まぁ、だからってそれをそのまま真似てるってだけじゃ違うけどな。
それだとそいつの真似事にすぎないし、つまりオレが言いたいのはあれだよ」

男は笑いながら君へ語る。

「憧れも模倣も真似事も結構。そいつを真似るも越えるも全く別のジャンルにいくのもいいさ。
問題なのは芯の部分で己が何をしたいか。“何に成りたいか”。
要するに人は一人しかいないだろう。ってことはこの世にはそれだけの数の道がある。
なのに同じ道が二つあっても仕方ないだろう。譲れない道ってのは自分の道がどう映るかではなく
どう在りたいか、そして、目指すべき場所がどこか、道ってのは常に走ってないといけない。
そうじゃないと道じゃねえからな。だから、オレもお前もお互いにまだ途中ってことだよ。
なんか自分で言ってて意味不明になってきたな…まぁ、あれだ」

セリフの最後に男は自分が伝えたい本心を伝える。

「お前は、お前の好きな道を行けって事だよ」

幼き日、そう語った彼。
正直、その時は彼が言う通り、意味の半分しか分からなかった。
だがそれでも彼が伝えたいもの、その情熱は確かに君の魂に伝わっていた。
それがこうして鮮明に思い出せるほど、深く印象づいているのだから。

◆     ◆     ◆

GM(ユニ):「…フィ〜ル?起きてる〜?」
ぶんぶんと君の目の前を左右に飛んでるのはユニの手。
それは夢か幻か。君は過去の出来事、記憶を一瞬見ていた。

クフィル:背中を向けた兄。微かに見えた横顔は笑っているようで。
それが不出来な弟を導くようにも見えた。

GM(ユニ):「…ねぇ、フィル。私はフィルの事をまだ全部知ったわけじゃないし
今のフィルが普段のフィルと違うとも言えない。ううん。多分、今のフィルもフィルの一つなんだよね。
だからさ、落ち込んでるときは思いっきり落ち込んで、立ち直った時は
それまでの十倍で勢いで行けばいいと思うんだ!」
言ってる事はいかにもユニらしい感じだが、それがどこか微笑ましくも思える。

クフィル:「ま、判ってたんだがな。どいつもこいつも心配性で困らぁ」
クスリと笑う。誰に言われるでも無く判っていた。
己の道は不完全で、完璧には程遠く、何よりも険しき道。
父の言葉を聞き、兄の背中を追い、友の存在を支えとした。
今まで出会ってきた人々、誰1人欠けたとしても歩んでこられなかっただろう。

だが、それでいい。

クフィル=フォン=アレクサンドロスと言う人間は唯の人間でいい。

こんな何でも無い唯の人間は悩んで、挫折して、泣いて、苦しんで。

それでも、多くの出会いと共に己の道を切り開いて行く。

クフィル:「あぁ、俺は俺でいい」
いつもの調子で不適に笑う。

GM(ユニ):「うん!だよ〜!」
とユニもまたいつもの笑顔で応える。
「えっと、あとね…」
どこか困った風に笑いつつ、やがて意を決したようにユニが俯き
次に顔を上げた、その瞬間“ガ―”と君はユニその襟元の服を掴まれる。
「王を気取るなら、まず部下に話しをしろ。
部下でなくともお前には信頼できる仲間があれほどいるだろう!」
と次の瞬間まるで別人の口調のように君を叱咤する。

クフィル:「うぉ!こえぇ!?」
素で焦る。

GM(ユニ):「まずお前は最初に話すべきだった。
そして次に会ったときは謝れ。お前を大事に想う者はお前の想像以上に多くいる事をな」
そうしゃべり終えて、呆気に取られる君を離した。

クフィル:「はい!すみませんでした!」
思わず直立不動の姿勢を取る。

GM(ユニ):「…えへへ、そう言うことで。わ、わかってくれたらいいんだよ〜」
と次の瞬間には、いつものユニの調子に戻り
君のその姿勢に対して困ったように対応する。何だったのだろう今の豹変は。
「とにかく元気になったのなら行こう。フィル。皆はもう戦場に行ってるよ」
ユニが伝えたその言葉に君は彼女の言わんとしている事を理解している。
彼女が言う皆とその戦場も。
「あ、それと私も一緒に行くからね!今回はお留守番は無しだよ〜!だからちゃんと護ってね、フィル」

クフィル:「応、安心しろぃ」

そうしてクフィルはユニの手を握り、向かう。

自分が向かうべき場所、仲間が待つ戦場、ラヴァード帝国の帝城へと――。


◆クライマックスシーン 〜帝城震撼〜
ラヴァード帝国首都エンブレル。

そこにはすでに降伏を受諾した帝国の兵と帝都を占領する王国兵でしき詰まっていた。
レイル王の通達により、降伏した兵及び一般市民への暴行や略奪を一切禁じ
その命令を遵守している事から統治の高さがそこに現れていた。
そんな帝都を見下すように彼は丘から、かつての主城を見ていた。

「レイル=ディラスか。見事な戦略構想だ。
それだけではなくカリスマ、そして武術においても比類なき才だ。
天より二物を与えられし者とは奴のような存在をこそ言うのであろう」

この稀代の天才にして、世界を統べる器の持ち主である
ユリウスに対しこうまで高い評価を下された人物は
後にも先にもレイルのみであっただろう。

事実、この時代においてユリウスに匹敵する戦略家は
恐らくレイルを置いて他にはいないだろうとユリウス自身が認めていた。

「…ユリウス様。如何なさいましょうか。
すでに帝城はレイル軍により占拠されております。
無論、ユリウス様がご命じ下されば
私一人で帝城にいるレイル軍を打ち倒してご覧に入れますが」

ユリウスの背後にいるかつてのオグドアス5シリウスがそう声をかけ
そのシリウスと同じくかつてのオグドアス11ヌンキが
今や彼の恋人と化したライラと共に背後に控えていた。

彼らは“神”からの命により、この新世界の王と共に行動する事を命じられていた。

「シリウス。お前は帝城の外にいる軍の相手をしろ。帝城へ向かうルート取ってな」

ユリウスのその命令が指す意味をシリウスは正確に把握していた。
即ち自分の行動は敵軍を引きつける陽動。

「そしてヌンキ。お前はライラを連れて城内部の敵の相手をしろ。
その間に私は帝城奥にある星触の回収へと向かう。
まず間違いなく帝城内部にはクフィル達も来るはず。
お前はライラと共に中央通路に陣取りそこへ来る敵を一切通すな」

「んふふっ、さすがはユリウス様。我々の戦力を冷静に分析して
正しい配置をされておりますね。確かに“私のライラたん”の力があれば
敵の侵攻を足止めするのが最も理に敵っていますからね〜」

そう言ってヌンキは自身の隣りに立つライラたんにさわさわとおさわりをする。
とてもおぞましい。

「…では行くぞ」

そう宣言し、動こうとするユリウスに対しシリウスは一つの懸案事項を問う。

「お待ち下さい。ユリウス様。私が敵軍を陽動しヌンキとライラが
帝城内部の敵を引き受け、足止めを行なう。そこまでは問題ありませんが
ユリウス様はお一人で星蝕へ向かう事になります。
その間に万一、レイル軍やクフィル達と遭遇した際、危険ではありませんか」

そう疑問を口にするシリウスだが
内心ではこのような問いが愚問である事を彼は周知していた。

何故ならば、目の前にいるのは過去の歴史上類を見ない最高の智将。
その彼がそのような目に見えた隙を埋めないはずがないのだから。

「問題は無い。私に危害を加えることなど何人にも出来はしない」

言ってユリウスは眼下に見える帝城を見て呟く。

「その為の我が駒もすでに配置済みなのでな」

その宣言を最後にユリウス、シリウス、ヌンキ、ライラ。
彼らは己が役割を果たすべく行動を開始する。

今、全ての役者がこの地に集い、新たなる展開を見せようとしていた。

◆    ◆    ◆

GM:帝城へと到着したアスタロト、フィー、ミュラー。
だがそこはすでに何者かの奇襲を受け、帝国兵は勿論王国兵ら両軍が共同し、その敵を迎撃している。
すでに戦場。そう呼んでいい光景だった。
「…これはすでにユリウス達が来ていると思った方がいいな」
言ってミュラーは鎌を構えアスタロトへ言う。

アスタロト:「出来る限り急ぎたいですね…もとより後手に回るのは覚悟の上、でしたが」

GM(ミュラー):「アスタロト。私とフィーは帝城を襲っている敵…
おそらくは陽動であるだろう、それの迎撃に向かう。お前はその間に帝城内部へ向かえ。
この中では星蝕に対抗できるのは“欠片”を持ったお前だけだ」

アスタロト:「了解です。――フィー、頼むね」

GM(フィー):「もっちろんよ!アンタこそ、がんばんなさいよ。アスタロト」
もうすっかりおなじみな笑みを浮かべて彼女はそう応える。

アスタロト:柔和な微笑みを返し、帝城への道を一歩進み出す。

そうして、帝都最大の戦いは幕を開ける。

◆    ◆    ◆

GM:城の内部を進んでいたアスタロトは意外な人物と再会する。
「!君は、確かアスタロトさん」
それは以前、君に母の手紙の内容を教えてくれた光輝五星の一人、ナナリア。

アスタロト:「ナナリアさん…!」

GM(ナナリア):「君もここに来ていたんだ…。殿下がいないようだけど」
と、彼女はきょろきょろと周りを見る。
「…今は別行動をしているってことでいいのかな?」
と彼女なりに君達の事情を察し、そう聞く。

アスタロト:「…はい。近く、合流できるはずです」

GM(ナナリア):「そう、ならこちらの現状を伝えるよ。
さっき城の外に敵が一人現れた。それだけじゃなくこの先にある中央通路にも二人
敵がこちらの進行を止めるように出現した」

アスタロト:固唾を呑み、そのまま先を促す。

GM(ナナリア):「僕は父さ…統括に命じられて外に向かってる。
だからここで君に会えたのは丁度良かったよ。時期にレイルも中央通路へと向かう。
アスタロトさん、レイルと合流した後、星蝕の元へ向かって下さい、その為にここに来たんですよね」

アスタロト:「――はい、勿論です。レイルさんも来てくれるんですね・・・!」

GM(ナナリア):「勿論だよ。レイル、前よりもすっごく強くたくましくなってるから」

アスタロト:「それを聞いて安心しました。……私も全力を尽くします」

GM(ナナリア):君の台詞を受けとるナナリアだが、ここで彼女は
君達と共にいた存在、中でもレイルの傍にいつもいた“もう一人の仲間”の姿が
欠けている事実に気づく。が、すぐに表情を戻し君の武運を祈る。
「――うん、任せたよ、アスタロトさん」

アスタロト:城の奥へと続く道を、ひたすらに急ぐ。

GM:ナナリアとの軽い別れを告げ、君はこの先の通路へと駆けていく。

この時のアスタロトはナナリアと別れた事を後になって悔やむ事となる。

そう、運命とはささいな出来事で変化していくもの。
故に、この時、ナナリアを引き止めていれば。
あるいは共に中央通路に向かっていれば。

そう遠くない未来、彼女は後悔する事となる――。

 
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